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CASE STUDY

先行事例
BIRDY.(横山興業株式会社)

~コア技術を磨き、顧客に価値を届ける~カクテルツールブランド「BIRDY.」のブランドストーリー

~コア技術を磨き、顧客に価値を届ける~カクテルツールブランド「BIRDY.」のブランドストーリー
「ものづくり」が盛んな名古屋には数多くの自動車部品メーカーがある。1951年に愛知県豊田市にて創業した横山興業株式会社(以下、横山興業)はそのうちの一社だ。そして今、世界トップクラスのバーテンダーから最も評価を受けているカクテルツールブランド「BIRDY.」はこの横山興業から生まれた。今回は自動車部品メーカーである横山興業がどのように自社技術を活かして世界に通用する新ブランドを開発したのか、そこに至るまでのストーリーをBIRDY.開発者の横山哲也氏に伺った。同氏はNewsweek日本版の特集 2019年度「世界が尊敬する日本人100人」に選出された注目のイノベーターの一人でもある。
デザイン経営から紐解く成功要素
イノベーション
ブランド構築
イノベーション

自社のコア技術を磨き上げ、自前主義からの脱却で他社と協業する

他社に真似できない唯一無二のコア技術を見出す

横山興業は自動車部品と建築資材をつくる会社だ。リーマンショックや東日本大震災で経営環境が大きく変化したことをきっかけに、2012年頃から新商品開発に取り組み始めたそうだ。
「具体的な新商品開発の要因の一つはサプライヤーが廃業等したことによって、不採算の仕事がうちに戻ってきたことです。また、部品をつくるプレスや溶接の技術が徐々にコモディティ化し、技術のみで売るのが難しくなりました。そういった変化に対応するため、中長期的な3つの新事業に踏み出しました。1つ目はタイへの進出です。弊社の自動車部品を海外マーケットに広げるために、タイに工場を設立しました。2つ目は新しい技術の導入です。金型メーカーとの技術提携を通して、例えばショベルカーに使う部品など商品のラインナップを増やしました。そして『もっと付加価値の高い技術と製品を生み出さなければ、生き残っていけない』と思いはじめたのが、3つ目の新商品の開発と自社ブランドの立ち上げです。」

「新商品開発に取り組む中で見出した技術がラップ研磨でした。これは製品自体に用いられる技術ではなく、自動車部品を生産する特殊な金型の一部を、最小50ナノメーターの精度で手作業により一つひとつ磨き上げるメンテナンスの技術です。自社の全行程の1%にも満たないほど登場回数の少ない技術なのですが、『手作業じゃなきゃできないんです』と職人が熱量をもって語る表情や雰囲気、ストーリーに不思議な魅力を感じ、ラップ研磨をコア技術にしようと決めました。今思うと、この技術を選んだ時点で大量生産は諦めていたのかもしれません。ですが同時に、他のだれにも真似ができない技術がここにあると確信しました。」

自社ができることに特化し、その他の技術は他社と連携する

新商品の開発に取り組む中で、内製化へのこだわりを捨てるきっかけがあった。
「実は、新商品開発に取り組んだ商品案の第一号は防犯フェンスでした。しかし、試作品を作る過程で、開発プロセスをイチから見直すこととなりました。でも、これを作ってみて決意したこともありました。それは『自分たちにできないことは前向きに諦める』ということです。たとえば、弊社の職人は部品の表面を、お店で売っているレベルに綺麗に仕上げることに慣れていません。なぜかというと弊社が作る自動車部品はどれもシートカバーに隠れていて、普段はお客様から見えない位置にあるからです。つまり表面処理の工程をあまり意識したことがなく、そもそも設備自体もないのです。今回の新商品開発の目的は職人の技術革新やマインドチェンジではなく、『自社の技術を活かしてお客様に新しい価値を届けること』でしたので、技術の足りない部分は積極的に他社にアウトソーシングすることを決めました。」

顧客の観察やインタビューとその洞察、仮説検証を繰り返すことで、顧客のニーズの本質を捉える

「商品の質による差別化も意識しました。質を上げるためには徹底的に自社のコア技術だけを磨くことが必要です。主力製品であるカクテルシェーカーの製造工程はプレス成形→内側の研磨→外側の研磨→脱脂・洗浄という順序ですが、横山興業がやっているのは、シェーカーの内側の研磨だけです。製造原価を考えるなら、最初のプレス作業は自社で済ませたほうが安いですが、商品のクオリティアップが最優先のため、内側の磨き工程以外は全て他社に依頼しています。」
「また、デザイナーとの関わり方にも気を配りました。まず弊社とパートナーになったデザイナーに造形の意図を伝えるためにコンセプトシートを自分自身で作成しました。その際に絵ではなく言葉で意図を伝えることに気をつけました。例えば、カクテルシェーカーをつくるに当たり、バーテンダーから『この部分をもっと細かくしたほうがいい』と形状に対するフィードバックをもらったとします。その時、バーテンダーの伝えたかったことが『シェーカーが持ちにくい』ということであれば、単に形状を細く変えることが、シェーカーを持ちやすくするための解決方法だとは限りません。そのため、フィードバックの意図を正確に把握し、その上で『持ちやすくしてほしい』とデザイナーには正確な言葉で伝えるように心がけました。」
防犯フェンスから始まった新商品開発。そこからいかにして世界的に認知されるカクテルシェーカーが誕生したのだろうか。

「試作品の第二号は日本酒のタンブラーを作りました。私自身日本酒が好きでしたし、自分が営業をして今後関わっていく商品ですので、情熱が傾けられるものでないと続かないと思ったからです。また、ステンレス用品の中を磨いたら日本酒の味が変わるのではないか?という仮説も持っていました。実際にこれで日本酒を試飲しても味の変化は感じなかったのですが、行きつけのバーでウイスキーの水割りを作ってもらうと透き通った味わいに変化しました。水割りを作る過程の『回転』の動作が味の変化に影響しているのではないかなどと考察をしていたまさにその時、たまたま目の前にカクテルシェーカーがあったのです。それを見て、これだ!とひらめきました。」
社内のコア技術探索開始から試作品の制作を繰り返し、カクテルシェーカーにたどり着いた横山氏。そこから、いかにして世界的カクテル用品ブランドへと成長していったのか。

ブランド構築

使命感にもとづき、中小ものづくり企業だからこそ狙える市場でグローバルトップを目指す

自社のカクテルシェーカーが生み出す感動を世界に届けたいという熱い使命感をもつ

ラップ研磨という自社のコア技術を、カクテルシェーカーに応用することを閃いた横山氏。市販のカクテルシェーカーを2つ購入し、一方を磨いて試作品を制作した。
「2つのシェーカーでカクテルを飲み比べてみたところ、劇的に味が変わったのです私と目の前で作ってくれたバーテンダーはふたりともその味を説明する言葉が見つからず、しばらく黙り込んでしまいました。後で調べると、味の変化に影響を与えていたのはシェーカーの表面の微細な凸凹で、カクテルの混ざり・冷え・泡立ちをよくして、仕上がりをまろやかにしていました。しかしその瞬間に思ったのはそういった論理や、これは売れる!という直感ではありませんでしたね。もっと純粋に、シェーカーで味が変わるということに気づいたら、世の中に送り出さないとだめだという使命感が芽生えたのを今でも覚えています。」
横山氏自身が商品にほれ込み、その感動を広く伝えたいと強く感じたことが、使命感という単語から伝わってきた。この感覚こそがブランドにブレない軸を通すことにつながるのではないだろうか。

世界的ブランドの名声を築きやすいニッチな領域を狙う

偶発的な出逢い(セレンディピティ)によってコア技術を用いたカクテルシェーカーを開発するにいたった横山氏。しかし、この製品を開発するに当たっては、他にも意識したことがあったそうだ。
「まず1つ目は『ライバルがいない商品を選ぶ』ことです。たとえば、キッチン用品は毎年、何千何万もの新しいアイデアがデザイナーによって生みだされ、値段が安くても質の良い商品がいたるところで手に入ります。これは逆に言えば、それだけ競合が多く、戦いがシビアであることを意味します。しかし、カクテルシェーカーで名のあるブランドは世界でも少ないので、新規参入するだけで世界トップ10になれるほど、市場としてはブルーオーシャンでした。また海外展開したとしても、どの国でも同じ形状のシェーカーが使われているので、国ごとに規格やデザインを考える必要がなく、商品改良のコストが掛からないのです。」

世界トップクラスのバーテンダーたちに使ってもらえるブランドを目指す

「カクテルツールを開発するに当たり、使ってもらうバーテンダーはその顔と名前が浮かぶくらい具体的に設定しました。私がターゲットに設定したのは『若く先進的な取り組みをしていて、且つ世界で活躍しているバーテンダー』です。そうして実際にバーに訪れてヒアリングを実施していきました。有名なシェフに会おうと思ったら、一回数万円するレストランに通わなければいけませんが、この領域の良いところは一回数千円を払えば、世界的なバーテンダーに会えることです。一般的に日本におけるカクテルの本場と聞いてイメージされるのは銀座だと思います。しかし世界で活躍しているバーテンダー全員が東京の中心に集まっている訳ではありません。私はそういった海外のカクテルコンペや様々な大会で受賞経験を持つバーテンダーと出会うために、日本中を飛び回りました。今では日本のファイナリストや優勝したバーテンダーのほとんど全員と友達のようにやり取りをしていて、BIRDY.を使用してもらった感想やフィードバックをもらっています。」

最後に、横山氏から新規事業開発をするに当たり最も重要な要素を訊いた。
「何においても愛情が大切だと思います。それは自社の商品や技術だけではなく、顧客やカクテル業界など関わるものすべてに向けたものですね。やっぱり自分が作るところから売るところまで今後もずっと付き合っていく訳ですから、その世界に入っていく覚悟と、出会うものを愛すること、は何よりも必要になってくるのではないでしょうか。そしてその愛情が仲間の職人に、協力してくれるバーテンダーに、商品を手に取るお客様に、そして世界に、と広く広く届いた時、結果的に揺るぎないブランドが作られるのだろうと思います。」

インタビューをする中で、横山氏が世界的なカクテルシェーカーを生み出す過程で直面した多くの壁をいかにして乗り越えてきたか、具体的なストーリーと共に解像度高く語ってくださったことが印象的だった。名古屋発の価値共創プラットフォーム「FUXION」は2021年7月26日より商品・事業開発ワークショップ「NEXT / XRROSS」が順次始まります。今年はどのような商品やサービスがここから生まれるのか。引き続きFUXIONの活動にご期待ください。

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