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事業の強みとデザインの力、外部協力者と生み出した新しい価値(横山興業・後編)
デザインを取り入れた事業開発の成功事例を学ぶ

事業の強みとデザインの力、外部協力者と生み出した新しい価値(横山興業・後編)

2021年6月1日(火)13:00~16:00に、「デザインを取り入れた事業開発の成功事例を学ぶ『事業の強みとデザインの力、外部協力者と生み出した新しい価値』」と題したFUXIONのイベントを開催しました。横山興業株式会社(以下、横山興業)取締役 横山哲也氏を講師に迎え、第一部は横山興業での実践事例の共有、第二部はミテモ株式会社 代表取締役 澤田哲也による横山氏との対談インタビューが行われました。自動車部品メーカー発の新規事業として横山氏が立ち上げたカクテル用品ブランド「BIRDY.」は世界のトップバーテンダーから信頼され、横山氏自身も「NewsWeek日本版 2019年世界が尊敬する日本人100」に選出されています。事業の立ち上げから世界のトップブランドに至るまで、各フェーズで横山氏が実践してきた事例を惜しみなく共有いただきました。後編となる今回は、第二部の対談インタビューで語られた事業の立ち上げから世界のトップブランドに至るまで、各フェーズで横山氏が実践してきたポイントを凝縮してお送りします。

インタビュアーである澤田は地域に伝統的に根付いている工芸産業や、いわゆる近代の工業技術を活かした新規事業領域への進出を支援する仕事をしています。デザイン経営という考え方を学ぶ場を作り出し、デザイナーの方たちとものづくり中小企業がコラボレートできる場づくりを行っています。冒頭、澤田の「多くの事業者の方と対話する機会も多い中で、横山さんほど、各工程を解像度高く説明できる方は大変に稀。さらに、意思決定のポイントを言語化できているがすばらしい。大変尊敬している」とのいうコメントののち、「BIRDY.が誕生するに当たり、『自社の活かすべきたったひとつの技術とは何か』に向き合った、というエピソードがあった。この問いはどこから出てきたのか」という質問から始まりました。

メッセージを尖らせたいなら、ワンフレーズで表現せよ

横山氏はwebデザインをされていたとき、3秒ルールというものを意識されていたそうです。webページを見たとき、3秒間で自分に有益な情報があると思わせないと、ページから離脱されてしまうそうです。その経験から、BIRDY.のブランドイメージを構築するに当たっても、特徴をA and B and C and… と積み重ねることにより、逆に聞き手の頭に残りにくくなってしまう、と考えたそうです。「ワンフレーズで言わないと反応してくれない、という近年の社会の傾向の中で、どうしたら自分たちの想いを強度のある状態で伝えられるか模索した」からこその、たったひとつの技術への集中だったそうです。

現場を知る人間からとことん話を聞け

次いで澤田から、「その技術にたどり着くまでの行動ステップを知りたい」との質問が投げかけられました。現場を改めて歩きなおしたのか、業務フロー一覧を作成して探索していったのか、さまざまな方法論がある中で横山氏はいかにしてラップ研磨にたどり着いたのでしょうか。また、ラップ研磨以外の要素技術が他にもあったのか、あったのならば複数の要素技術をどのように絞り込んでいったのでしょうか。横山氏は「前者である」と言います。現場を歩くことで、現物を見つけていったそうです。さらに、社内のいろいろな人間に聞くのではなく、技術の上流から下流までを把握しているたったひとりの人間、それもメンテナンスを担当する係長クラスの方に、おもしろいと思う技術がないかを「とことん聞いた」そうです。多くのエピソードが出てくる中で、ラップ研磨のストーリーをその人が語っているときが一番饒舌であったこと、横山氏もそのストーリーを聞いておもしろいと直感したことが決め手になったそうです。ひとつのポイントとして、経営に近い立場の人間に話を聞いてしまうと、最終的なプロダクトを量産することに思考の軸が固定されてしまい、量産できない技術が視野に入ってこないことがあるそうです。そういう意味でも、幅広い技術が検討でき、さらに実際の現場を知っている職人気質をもつ人間から話を聞くことが、要素技術を見出すに当たって重要であることが示唆されました。

ネットに載っていない技術だからこそ、オリジナリティがある

では、なぜラップ研磨のストーリーを聞いたときに、横山氏は直感的におもしろいと感じることができたのでしょうか。その判断基準のひとつが、「ネットに情報が載っているかどうか」という点でした。「溶接がきれい」といった自社の価値判断ではなく、ネットにも載っていないような独自の技術であることに注目したそうです。また、ラップ研磨は拡張性(≒応用可能性)という点でも優れていたと横山氏は言います。例えば水道の蛇口部分を磨いたら味が変わる可能性があるかもしれない等、カクテル用品にとどまらず、さまざまな分野や製品と技術を掛け合わせられる可能性があると感じたそうです。さらに、横山興業のこれまでの歴史から、横山氏は「金属からは離れない」という軸ももっていました。樹脂を加工したり、サービス業を始めるようなことはしない。金属を加工することでプロダクトをつくる、とスコープを絞っていたそうです。だからこそ、金属性のプロダクトについてのアンテナを張り巡らせることができ、最終的にカクテルシェーカーへの応用が実現されました。

ラップ研磨にたどりついた3つのポイント

①ひとりの技術者に徹底的に話を聞いた。
②量産できるできないに関わらず、自社がもつ独自の技術に着目した。
③技術が拡張性(≒応用可能性)をもっているか検討した。

BIRDY.というブランド名に込められた新しい王道をつくるという決意

BIRDY.の誕生にまつわるストーリーに続き、ブランド構築に関して話題が及びました。BIRDY.という名前はもともと、ゴルフのバーディー(コースに定められた打数よりも一打少ない打数でカップに入れること)にちなんでいるそうです。横山氏は大学で美術史を勉強されていました。美術の歴史を振り返ると、華美なデザインとシンプルなデザインが交互に出てくるそうです。ブランドの名称を考えるに当たり、従来のカクテルシェイカーを見てみると、どちらかというと装飾が施され、華美な方向へ振れているように横山氏には見えました。そのカクテルシェイカーの歴史を「巻き戻し」、新しい王道をつくりたい。シンプルであり、マイナスできる(≒要素を研ぎ澄ます)ことに価値を置きたいとの想いを込めました。加えて、水準よりもひとついいものをつくろういう決意表明の意味も込められたそうです。また、新しい王道を目指すに当たり、海外の方にブランド名がどのように響くのかなども、英語のネイティブ・スピーカーに確認をするなどして検討されたそうです。


続いて、会場から「BIRDY.としてシェーカーをつくろうと心底から決心されたきっかけはなんだったのか」という質問が投げかけられました。試作品のタンブラーで劇的な味の変化を体感したとき、横山氏は鳥肌が立つような強い感動を覚えたそうです。そしてこの感動が、この製品を世の中に届けたいという使命感に変わったそうです。ラップ研磨にたどり着くまでに多くの試行と思考を積み重ねてきたからこそ、研磨したカクテルシェーカーでの味の変化に出会った際にここまでの強い感動を覚えたのではないか、という澤田のコメントで、対談インタビューは締めくくられました。

赤字への転落が視野に入り、強い危機感から新規事業開発に取り組んだ横山氏。市場探しから製品の決定、仕様の検討にいたるまで、各段階で着目すべきポイントが惜しげなく披露された講演、そして対談インタビューでした。

FUXIONでは現在、商品・事業開発ワークショップ「NEXT / XROSS」が開講中です。ものづくり中小企業×ビジネスパーソン・デザイナー・デザイン系学生による共創で、どのような商品・事業が生まれてくるかご期待ください。

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