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CASE STUDY

先行事例
株式会社 岩田三宝製作所

技術の伝承への熱い想いを原動力に ~岩田三宝のブランドストーリー

技術の伝承への熱い想いを原動力に ~岩田三宝のブランドストーリー
 昨年度開催されたFUXIONの参加事業者のひとつである株式会社岩田三宝製作所(以下、岩田三宝)。名古屋で江戸中期より200年以上に渡り神仏具の製造をしてきた老舗企業である。その老舗企業が、なぜ新商品・新規事業創出プログラムに参加したのか。そして、参加から1年を経て、現在どのような取り組みを続けているのか。岩田三宝 取締役専務で尾張仏具伝統工芸士でもある岩田康行氏にお話を伺った。
デザイン経営から紐解く成功要素
イノベーション
ブランド構築
イノベーション

トライアル・アンド・エラーを繰り返すことで、新商品開発のタネをまく

小さな取り組みから始め、成功体験を積むことで次のステップへ進む土台を整える

 伝統工芸である仏具の需要が年々減少してきていることを肌で感じていた岩田氏。祖父の時代には販売単価が半分であったにも関わらず、売上高は現在の2倍以上であったそう。両親が現役で社業に取り組んでいる世代交代前の今だからこそ、新しいことにトライしなければならないという危機感があったと岩田氏は語ります。
「今のうちに新しいことにトライしておかないと、自分の代になったときに時間がなくなるのではないかと感じました。新しい経験を積んでおくことが、将来的に財産になる。代替わりをしてから片手間に細かく新規事業に取り組むよりも、集中して取り組む方がよいとも考えました。そこで、2015年頃から社内有志の部活動として、近隣の朝市で販売する商品の開発を始めました。三方(さんぼう)と呼ばれる神事に用いられる台をつくる技術を応用したコースターなどを、その場で実演しながら販売したんです。すると、実演の様子を物珍し気に眺める子どもたちが集まってきた。そこから着想を得て、組子のブロックなどを販売したりしました。こういったことを行う中で、新しいことに取り組むことへのハードルが徐々に下がってきたように思います。」
「新しい挑戦を続ける中で、あるデザイナーさんが経営に関わる飲食店のオープニングセレモニーで、当社の三方を使っていただく機会があったんです。すると、仕上がりを見たデザイナーさんから後日連絡をもらい、この技術を活かした商品開発ができないか、というお話をいただきました。これまでは製品の企画からデザインまでを自分たちで行っていましたが、これをきっかけに、デザイナーさんと一緒に商品開発を行うという経験をすることができました。その結果できたのが、木曽ヒノキを使ったボトルクーラーです。2019年11月に行われたG20 外相会合のお土産に採用されるなど、大きな成果につながりました」

写真:G20外相会合のお土産にも採用されたボトルクーラー(関連webサイトはこちら

新商品開発に繰り返し取り組んだからこそ、いくつもの点(≒新規事業のタネ)が線としてつながった

 社内の部活動から始まった新商品開発。デザイナーとの共創によるボトルクーラーの成功を経て、岩田氏はなぜFUXIONに参加したのか、そしてどのような学びを得たのでしょうか。
「デザイン経営という考え方には触れたことがありませんでした。ただ、デザイナーさんとの協業での成功体験があったため、同じようにデザイナーさんと組んでの新商品開発ができるならと、飛び込むことに決めました。プログラムではビジョンの作成から行ったことで、自社を見直すきっかけになったと思います。また、デザイン経営の講義を受ける中で、自社の中にある課題や、これまで取り組んできたことがつながっていく感覚がありました。まさにフュージョン(融合)ですね。例えば、神仏具を製造する工程で出る廃材やカンナ屑をどう処理するか、社内で課題となっていました。焼却炉で燃やしていたのですが、再利用できないか検討していたんです。以前、社内でバイオ燃料にできないかなども検討してみたのですが、その用途で使うには量が少ないため、断念していました。ただ、ヒノキオイルが抽出できるということはわかっていた。また、カンナ屑を使って家族が花をつくってくれたため、それをFacebookに投稿したところ、それを見た知人がカンナ屑でバラなどの花を高いクオリティで制作してくれたんです。そういった、廃材から抽出したヒノキオイルであったり、カンナ屑でつくった花であったり、といったタネはいくつかありました。それらのタネが、FUXIONに参加することでつながっていく感覚があったんです。カンナ屑はフレグランスオイルのディフューザーに。ヒノキオイルは、香りのお守りに。それぞれ新商品アイデアとして実際のかたちにすることができました。マーケットインの発想から社内を見回しながら、最後は自社の技術を活かした商品をプロダクトアウトすることが重要なのではないかと現在は理解しています」

写真:ハンズオンで制作した製品のプロトタイプ

新しい潮流や海外の生活様式に合わせ、柔軟に製品を開発する

「FUXIONでの商品開発の経験を活かしながら、現在は海外販路の開拓に力を入れています。そのために、NUSA(ヌサ)という新しいブランドを立ち上げました。今、特に海外では動物由来の食品を口にしないヴィーガンの方が増えてきています。お昼時にはサンドイッチなどを露店で購入し、川沿いで食べる文化がありますが、ランチを購入するに当たり、ヴィーガンに対応した店舗が多くないそうなのです。そこで、自らつくったヴィーガン料理を弁当箱に入れ持参するという文化がつくれないかということで、木曽ヒノキを使った海外向けのランチボックスを開発しました。石油製品を忌避する動きも鑑み、漆の塗りも内側のみにして天然素材を使っていることが一目でわかるように工夫しています。またアイテムの品ぞろえも、フルーツボウルやコーヒーテーブルなど、海外での生活様式に合わせた展開を心がけました。さまざまな製品が溢れる日本国内でなく、より広い市場へリーチできる可能性のある海外で戦うためにどうすればよいかを、日々考えています」
2015年の有志の部活動から始まった新商品開発の取り組みは、現在、海外市場を主戦場としたブランド立ち上げにまで成長しました。その礎となっているのは、ここに至るまでに試行してきたさまざまな取り組みやFUXIONでのビジョン構築などのデザイン思考です。新しい挑戦を重ねることで、より大きなステージに立つようになった岩田氏のイノベーションのステップが垣間見えました。

写真:海外市場を見据えて新たに展開するNUSAのイメージ(関連webサイトはこちら

ブランド構築

技術伝承への強い想いとプライドで、自社技術の新たな価値を見出す

歴史を紡いできた自社の技術を伝承し、100年先の伝統工芸品を今つくるという決意

 江戸時代中期に名古屋の地で尾張仏具が発展したのは、時代背景と地勢的な要因がありました。
「尾張藩は木曽山中までを領域としており、木曽山中で切り出された材木は木曽川を通って名古屋城下に届けられ、加工を経て全国へ出荷されていたそうです。また、彫金の技術は下級武士の内職として広まったと言われており、豊富な木材と金具職人の増加を背景として尾張仏具は生まれました。そのため、生産工程が分業化されていることも尾張仏具の特徴のひとつとなっています。さらに、神具は日本独自の文化を形成するもののひとつであり、古来より長い時間をかけて育まれてきたものです。このような背景をもち受け継がれてきた木材加工の技術ですが、ひとたび廃れてしまうと、その技術の復興は容易ではありません。受け継がれてきた技術を、反映される製品の様式は変わっても、まず継承していかなければならないという使命感がありました。現在、伝統工芸と言われているものも、生まれた当初は当時の生活様式に合うようにつくられ、流行を経て現在に至っています。古き良きものを作り続けることもすばらしいことですが、わたしたちは次の100年を紡いでいかなければなりません。100年後に振り返ったとき、現在の生活様式に合ったものを、古来より受け継がれてきた手加工の技術で生み出すことで、新たな伝統工芸として認識してもらえればいいなと思っています」

これまで培ってきた神社仏閣への販路を活用する

 伝統工芸の技術を伝承するという使命感からさまざまな商品開発に乗り出し、FUXIONへも参加された岩田氏。プログラム内でのワークショップやハンズオンでは、これまで培ってきた神社仏閣への販路という独自の財産にも気がつくことがあったと言います。
「廃材を利用したヒノキオイルの商品開発をFUXIONでしたのですが、フレグランスの分野は競合も多く、百貨店などのバイヤーさんには反応してもらえないのではないかという意見が出ました。そこで目をつけたのが、これまで神仏具を納めてきた神社仏閣への販路です。神社仏閣で香りに関連した製品はあまりなく、香りをテーマにしたお守りであれば置いてもらえるのではないかと考えました。この販路は、もともと神事に関わる道具を製造してきたからこそ活かせるものです。すでに世の中にあるものでも、販路を工夫することでニッチなポジションを獲得できるのだと気がつくことができました」

自社の天然素材の加工技術を、海外からの目線で客観的に評価する

「NUSAでもお話しましたが、海外では脱石油製品の動きが広がっています。JETROのプロジェクトに参加した際、シンガポールでの展示販売会に出展する機会に恵まれたのですが、そこで天然素材に対する需要を感じました。さらに、2019年にフランスへ行った際に、インテリア・デザイン製品の世界最大のトレードショーであるメゾン・エ・オブジェを視察したのですが、そこでも脱石油製品の潮流により木製のフォークやナイフなどの需要があることを目の当たりしました。しかも展示されている木製品は、機械加工がされているなど、比較的高めの値段設定と比較してクオリティが高いとは感じなかったのです。そこで初めて、日本の技術の高さを認識しましたし、自分たちがこれまでやってきたことにも誇りをもつことができるようになりました。日本国内で、小ロット且つ安価に製品を製造するよりも、海外で評価される道があるのではないかと思うようになったのです。日本文化と共に育まれてきた伝統的な加工技術や素材を、海外の目線で客観的に評価できたことはよい機会となりました」

 

 新しい挑戦を重ねることで新商品のタネを生み出し、デザイナーと共創することで革新的な製品開発へとつなげてきた岩田氏。そこには、長きにわたり継承してきた技術を絶やしてはならないという使命感と、これまでの事業で築いてきた販路による差別化、自社の加工技術の海外市場での評価など、ブランディングにおけるさまざまな要素が含まれていました。岩田氏は言います。
「明治時代まで、三方は各家庭にありました。現在の生活様式に合った新商品を開発し日常的に触れていただく機会を増やすことで、これまでわたしたちが培ってきた技術や工芸品にも目を向けてもらいたいです。そして、このような技術や文化が息づく日本文化の独自性に気が付き、誇りをもってもらえるといいなと思います」
FUXIONに参加する以前から、挑戦のタネをまいてきた岩田氏。そのタネが、FUXIONで芽吹き、絡まり合うことで、岩田三宝はさらに飛躍していきそうです。

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